「GOTO”ご町内”」のお勧め 前田純一郎
新型コロナの全国的な感染がとまりませんね。「GOTOトラベル」も「GOTOトラブル」と揶揄される始末です。しかし、「GOTO我が町内」なら問題ないでしょう。先日、私の地元、茨城県牛久市の「牛久シャトー」にGOTOしました。「牛久シャトー」は、明治36年(1903年)に浅草・神谷バーで知られる実業家「神谷傳兵衛」が牛久に建設しました。当時は葡萄栽培から醸造・瓶詰めまで一貫して行った日本初の本格的ワイン醸造場であり、日本のワイン発祥地の一つとして知られています。自由民権運動の板垣退助や、時の総理大臣松方正義、日露戦争の大山巌、児玉源太郎等も訪れたとの記録があります。山梨県甲州市と共に、「日本ワイン140年史~国産ブドウで醸造する和文化の結晶~」として、令和2年度の日本遺産にも認定されています。本日は、「牛久シャトー」にまつわるエピソードを少しご紹介させていただきます。

「電気ブラン」をご存じですか?明治時代に登場したブランデーベースのカクテルです。ブランデー、ジン、ワインキュラソー、それに薬草がブレンドされているそうです。「電気・・・」とは、文明開化の時代に、最先端のハイカラなものにつけるキーワード、殺し文句だったようです。現代のITの世界で言えば、「サイバー・・・」、とか「e-・・・」のようなものですね。
浅草のど真ん中、雷門の近くの交差点の角に「神谷(かみや)バー」というのがあります。住所は、台東区浅草1丁目1番地1号、まさに浅草の心臓部にある老舗ですね。「電気ブラン」は、この「神谷バー」の創業者、神谷傳兵衛がおよそ100年前に考案した飲み物です。神谷傳兵衛は、三河の国に安政3年に生まれた実業家ですが、若い時に病気で命を落としそうになった時に、葡萄酒を飲んで一命を取り止めて以来、葡萄酒作りに一生をささげることになりました。我が地元、牛久市に広大な葡萄園と醸造所を設けました。現在、「牛久シャトー」として、「稀勢の里」の引退後、地元、牛久市にある数少ない全国区の観光スポットになっています。
さて、この「電気ブラン」ですが、当時は、アルコール45度の「しびれる」ような強い酒で、「電気・・・」のイメージとぴたりと合ったようです。現在では、「電気ブラン」(30度)と「電気ブランオールド」(40度)の2種類があり、「神谷バー」では、前者を「デンキブラン」、後者を「電氣ブラン」と区別しています。明治から令和へ、100年以上絶えることなく人気を保ってきました。大正時代には、浅草六区(ロック)で活動写真を見て、その帰りに神谷バーに立ち寄り、一杯10銭の電気ブランを2,3杯やるのが、当時の庶民の最高の楽しみ方だったそうです。

小説や詩の世界にも、「神谷バー」や「電気ブラン」の登場するものがたくさんあるようです。少し調べてみますと、大正初期には、萩原朔太郎に「神谷バー」を詠んだ歌があり、また、太宰治の「人間失格」の中にも「電気ブラン」が出てきます。昭和35年、三浦哲郎の芥川賞小説「忍ぶ川」、昭和47年、あがた森魚がリリースしたアルバム「乙女の儚夢」に収めた曲「電気ブラン」、昭和60年、須藤真澄の漫画短編集「電気ブラン」、・・・と大変な人気です。
私も会社在職中には、帰宅途中に折に触れて、この「神谷バー」に立ち寄ったものです。「デンキブラン」は、一杯260円。店内は明るく改装され、若い人や女性のグループなどもいて大変賑わっていますが、以前は、天井が低く、レンガ積みの壁がむき出しになっていて独特の雰囲気があったようでしたが・・・。

以下は、他愛ない余談です。読み飛ばしても結構です。某日、某ゼネコンの研究所員A氏と二人で何かの集まりの帰りに神谷バーで「電気ブラン」を2,3杯やり、その勢いで、浅草六区のロック座(解説は省略します)に出かけ、「かぶりつき」で十二分に芸術を堪能しました。その翌日、会社に出勤しますと、当時、「全社品質管理活動」で、指導的な役割を果たしていた技術部長N氏に肩をたたかれました。「前田君、きみ、昨夜はどこにいたの?」(私の返事):「ちょっと浅草に飲みに行きましたけど・・・」すると、N部長は、にっこり笑って、「僕はね、ロック座で、君たちのすぐ後ろにいたんだよ・・・。」N部長は、お宅が世田谷の方でしたから、ご帰宅は浅草とは正反対の方角です。この奥深い芸術領域にも大変造詣の深いことを知り驚きました。品質管理とロック座の技術的・哲学的関連はよくわかりませんが、何故か当時の勤務先会社の「ふところの深さ」?に感銘を受けたものです。
「電気ブラン」は、「神谷バー」の他に、私の地元「牛久シャトー」でも手に入ります。電気のようなしびれる感覚をまた味わってみたいと思います。皆様も是非一度お試しください。日頃見慣れている皆さまのご町内にも、隠れた魅力、 素敵なスポットがあるのではないでしょうか? GOTO「ご町内」、どうぞお楽しみください。
(参考:リンク先)
「牛久シャトー」
http://www.ushikukankou.com/page/spot/ushiku-chateau.html
「神谷バー浅草」
http://www.kamiya-bar.com/
「浅草ロック座」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E5%BA%A7