なぜ、「左翼」を「リベラル」と称するのですか? 高瀬義道
左翼・右翼というのは、フランス革命の「自由、平等、博愛」から発生した概念で、博愛はともかく、自由と平等は、相矛盾する概念で、そのバランスのとり方に国家統治上、歴史的に各国大変苦労してきた課題です。
自由を指向すると、究極は弱肉強食の地獄となります。平等を指向すると個人の自由は奪われ監理強制の絶対・全体主義体制の地獄となります。この両極端の間で、折り合いを付けて、国家体制を造り統治してきたのが近代世界でした。
これを、平等を強調する体制から、自由を強調する体制まで左から右へ左翼・右翼と呼んでその程度により並べていたように理解していました。
さて、リベラルという言葉ですが、元来英文のLiberalを日本語化したものと思われます。英語のLiberalは派生語である、Liberation、Liberty、Liberalism、など束縛から解放された自由という概念が根底をなしています。ウーマン・リブのリブもLiberationの略です。
経済用語の場合では、政府や王権の束縛をできるだけ小さくして、神の見えざる手に任せた方が経済運営上巧く行くと喝破した、アダム・スミスらによる古典派自由主義経済理論が自由経済の嚆矢です。
その後、自由経済では、貧富の差が拡大し、富める者は益々富み、資産を持たない貧乏なものは益々貧乏になるという現実的観測から、何らかの人為的な制度導入が必要であるということが主張され、その政府権力の介入の強さから、修正資本主義、修正社会主義、社会主義、共産主義など様々な社会実験・経済理論が議論され制度としても打ち立てられ、究極はソヴィエトによる約1世紀に亘る壮大な社会実験が地球規模で行われ、必然的に全体主義体制による、指令計画経済の失敗実験として20世紀に幕を閉じました。
近年、この共産主義実験の失敗から、左翼的な社会主義が等閑視され、社会主義という用語の出現数が漸減していきます。それに呼応する形で、リベラルという用語が頻繁に使われるようになった印象があります。
しかし、リベラル本来の意味、使用法は、自由という概念を根底に持ち、政府・権力の束縛からの解放を意味する言語本来の意味です。一方、左翼の基本思想は、権力により自由を制限し、大きな政府の下に社会保障を厚くし、富の再配分を強化して、統制経済を一部導入しても、できるだけ平等な社会を実現することが理想であると信じていると理解していました。
現実にリベラルと呼ばれる左翼政党の政策・綱領を見ると、新自由主義が目指す企業活動の自由なリベラルな経済活動を許すよりは、一定の経済統制を行い、社会保障を強化する性格の政策が列挙されています。
用語と概念が、タスキ掛けになっていて、頭が混乱しているのは私だけでしょうか。因みに、政党名の自由民主党は英文表記、Liberal Democratic
Party、一方の立憲民主党は、The Constitutional Democratic Party of Japan、社会民主党はSocial
Democratic Party国民民主党は Democratic Party For the People、公明党はKomeito、共産党はJapanese
Communist Party、と左翼政党にはどの党にもLiberalという表記は出てきません。単にリベラル政党というと、党名に表記されている自民党を指すことになるように思われますが。
因みにアメリカには多数の政党がありますが、代表的な2大政党、共和党はRepublican Party、民主党はDemocratic Partyです。
現在の用法のリベラルが、いつ、どこで、どのような背景で使われるようになったのか、是非、この言葉の出自と、使われている真の意味を知りたいと思います。
どなたか、教えて下さい。
(高瀬さんからいただいた補足的なコメントです。)
前田 様
早速、ホームページにアップ有り難うございます。
私の疑問は、西側諸国を共産国という称するような、術語概念の反転が起きた発端・経緯などを知りたいと思っています。リベラル経済と言えば、自由経済、いわば乱暴な市場放任経済を連想するので、社会主義政党をリベラル政党と言い始めた経緯と、どうしてそういう逆転誤用が蔓延したのかを知りたいと考えた次第です。
どうも日本だけでなく、他国でも左翼政党をリベラル政党と言っているようですので、不思議を知りたいと考えています。多分、会員の中には海外経験、マスメディア関係の方々がいらっしゃいますので、是非教えて頂きたいと思います。
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高瀬義道 ymtakase@gmail.com
(上記、高瀬さんの問いかけに対して中川先生が下記のようなご意見を寄せられました。)
2020年9月21日(月) 14:57 nakagawa <shnakaga@jcom.home.ne.jp>:
高瀬 義道様
「リベラル」の語感、感触でいうと立憲民主党の枝野幸男に重なってしかたがありません。彼がどのように認識しているのかわかりませんが、国民の耳あたりの良さをねらっているのではないか、と思いつきました。
語義からいって、しゃれた自由でしょう。ところが党名、立憲にこだわる彼は現憲法に律するということであって、まったくの保守そのもの。とてもリベラルをいう資格なしだと思っております。民度がそれほど高いとは言えない国情のなかで、なんとなくわかるような気がする「リベラル」がかっこいいんでしょう。
病気を主たる理由に政権をおりた安倍晋三に国民の哀情が注がれるや否や、マスコミはとたんに批判を「おくら」にいれました。「おくら」には残してあります。
以前書きましたが、マスコミに国民教育をしてもらいたいだれかがいるんでしょうか。
COVID-19によって、世界中、いかに不要なものが多かったかが判明、民放へのスポンサーが減少するでしょう。
ただ地球上のホモサピエンスはよくもわるくも忘れやすい生物です。イスラエルのユヴァル・ノア・ハラリに言わせると宗教、政治を「Fiction」でかたづけます。中国は地球上での最長のFiction、「人治」を変えません。「 」は造語です。
中川滋木
中川 先生
解説、有り難うございます。
枝野幸雄が執権握ったら、リベラルとは対極の習近平的不自由世界になるでしょう。監視・統制・強権・独裁のイメージが私の彼に対する印象です。
社会的用語の場合、語の本来の意味など関係なく、語感・イメージだけのものですか。確かに本来のリベラル=自由とは些か違和感がありました。
人間は、自分の存在もかなりあやふやなフィクションなので、フィクションを積み上げて実在のつもりになっているのでしょうね。これからドンドン、フィクションの世界は増大しそうです。バーチャル、VR、ARなどリアルの世界に踏み込んできたフィクションそのものです。
尤も、リアルの世界と言っても、フィクションの世界の上に構築された形而上の観念ですから、秀吉ではありませんが、「露と落ち 露と消えにし 我が身かな
浪速のことは 夢のまた夢」ということなのかも知れません。
先生のお話は、いつも色々考えさせられます。
誠に有り難うございます。
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高瀬義道 ymtakase@gmail.com
高瀬義道氏から、下記の投稿がありました。(2020年10月31日)
”用語「リベラル」の疑問が解決しました。”
本日31日の東大「知の協創カフェ・セミナー」というZoomセミナーで「『東大塾 現代アメリカ講義』出版記念講演会 ~2020年の大統領選挙を考える~」の著者矢口裕人による講議でZoom質問者から答える質疑応答の中で「リベラル」という使われ方が判りました。
本来の意味は、「小さな政府を指向する自由主義」という用語でしたが、アメリカで左翼というと通りが悪いので、誤用を承知の上で敢えて左翼をリベラルと称して、サンダース等の考え方の、どちらかというと極左を包摂した左翼をリベラルと称するようになったそうです。
日本も、その用語法を真似したまでのことです。私が混乱したのは用語の概念が完全に反対だったせいです。厳密の意味では日本には右翼を含め、”Laissez-faire,
Laissez-passer”の真の「リベラル」は存在しません。
(以下は、ネットサイトから、参考資料として前田が取り上げた資料です。出典は、下記の資料中に記載しています。)
「自民党こそリベラルで革新的」——20代の「保守・リベラル」観はこんなに変わってきている
• 出典: BUSINESS INSIDER 2017年10月31日
• 文責: 室橋祐貴 [編集部]
若者は本当に「保守化」しているのか。若者の自民党支持率は高く、今回の衆院選で18〜19歳の47%、20代の49%(ANN調べ)が比例で自民党に投票したという出口調査結果も出ており、こうした結果から若者が「保守化」しているとも言われる。一方、実際に若者の声を聞くと従来のイデオロギー観とは全く違った政党観が見えてくる。
読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所が2017年7月3日〜8月7日に共同で行った調査結果によると、40代以下は自民党と日本維新の会を「リベラル」な政党だと捉えており、共産党や公明党を「保守的」な政党だと捉えているという。
対して、50代以上は、従来のように、自民党や日本維新の会を「保守」と捉え、共産党を「リベラル」だと捉えるなど、大きな「断層」が生じている。
特に、若い世代ほど自民党を「リベラル」だと感じる傾向が強く、18〜29歳が唯一民進党よりも自民党の方を「リベラル」だと見ている。
「改革」を強調する自民と維新
なぜ、自民党を「リベラル」だと思うのか。
話を聞いた若者が共通して挙げたのは、「自民や維新こそ革新的」だという点。
「安倍政権の経済政策(アベノミクス)や憲法改正、積極外交、内閣人事局の設置などは今までになく、維新の大阪都構想や地方分権(道州制)など、どちらも改革志向にある。一方、その抵抗勢力である民進党や社民・共産党はリベラルとは逆のところにいると思う」(首都圏の国立大学院2年、24)
特に10代や20代前半にとっては政権末期の民主党や、民主党政権時代の「自民党=野党」のイメージが強く、「改革派」の自民党、「抵抗勢力」の野党(民進党、共産党)という構図で捉えているようだ。
今の10代20代には民主党政権の「マイナス」なイメージが根強い。
都内の国立大2年の男子学生(20)はこう語る。
「自民党は働き方改革やデフレ脱却など、抜本的ではなくとも、悪かった日本の景気や雇用状況を改革しようとしているように見える」
実際、2018年卒の大学生・大学院生の就職内定率(10月1日時点、ディスコ調べ)が92.7%と調査を始めた2005年以降過去最高になり、日経平均株価は約21年ぶりの高値となるなど、数値的にも良い結果が出ている。こうした数字は10代や20代にもSNSなどで目に入っており、成果を出している印象を受けやすい。
他方、野党は改革の方向を争う相手ではなく、「現状肯定派」に見えている。
「野党はアベノミクスに変わる経済政策の具体策を提示できておらず、単に自民党政権の政策を中止しろと言っているだけ。年功序列とか前時代的な給与・労働体系を守ろうとする現状肯定派であり、旧来の枠組みから脱出することのない保守的なものに映る」(前出の国立大生)
小学校高学年に自民党の政権復帰を体験した中学3年の男子学生(15)は、「共産党や民進党は政権批判ばかりしていて、共産主義も過去の時代遅れの思想で古いイメージが強い。自民党は新しい経済政策で株高などを実現させており、憲法改正も含めて改革的なものを感じる」と話す。
実際、各党の衆院選公約を見ると、維新と自民党が最も「改革」という言葉を使っており、自民党が政権を奪還した2012年の衆院選公約の29回、2014年衆院選の34回、2017年の40回とその使用頻度も増加傾向にある。
他方、今回選挙の公約を見ると、希望の党は17回、立憲民主党は0回と、こうした言葉遣いも党のイメージに表れているのかもしれない。
「大きな政府」の自民党
「経済政策がリベラル」という意見もある。
実際、アベノミクスの主要な政策の一つである金融緩和は、イギリス労働党やスペインの左翼政党「ポデモス」も掲げており、日本においてもマルクス経済学者の松尾匡立命館大教授も「左派こそ金融緩和を重視するべき」だと主張している。首都圏の28歳男性会社員は世界的に見れば安倍政権は「リベラル」だという。
アベノミクスや憲法改正など改革的な政策を推進する安倍政権。
「前原代表の『All for All』が出て変わってきたと思うが、民主党政権時代の事業仕分けや、財政健全化を重視して増税を掲げるなど、民進党の方が緊縮的な印象が強い。自民党も家族など伝統的な価値観を重視しているとは思うが、介護保険など高齢者を社会で支える政策も実現しているし、野党がそれに代わる価値観を提示しているとも思えない。
非正規社員のような弱者救済の観点でも、大企業の正社員中心で構成される連合が支持母体にいる時点で限界がある」
また前出の男子学生(20)も自民党の経済政策が小さな政府志向ではないと話す。
「働き方改革や管製賃上げなどで市場原理に介入し、長時間労働規制など労働者の権利を守る改革も実行している」
日本に真のリベラル政党はない
これに対し、東京大学の井上達夫教授(法哲学)は日本に真のリベラル政党はないという。
「私は保守だと思っている」と主張する立憲民主党の枝野幸男代表。
欧米の思想の流れでは、保守とリベラルの対立は、政治、経済、軍事外交の3側面に分けて考えられる。ただ、実際は経済と軍事外交面では混乱しており、日本においても、政治面が最も明確に分かれている
自民党は、靖国神社公式参拝や選択的夫婦別姓反対、特定秘密保護法など、伝統保持や秩序維持のために市民的・政治的人権をある程度制限しようとしており、政治面において保守であることは明確だ。
若者に聞いても政治面で自民党が保守であることを否定する人はいない。それに不満を持っている若者も多い。ただ、若者にとってより重要なのは経済政策であり、安全保障に関してもある程度の「改革」の必要性は認めている。
「政治面は確かに自民党が保守だと思うけど、経済政策とか他の政策で判断してる」(前出の大学院生)
「女性活躍推進は不十分で、配偶者控除の見直しが十分に進まないなど、部分的な不満はもちろんある。一方で、安全保障に関しては現実的にある程度の強化が必要だろうし、安倍政権は外交も積極的に行うなど、そこまで保守的(タカ派)だとは思わない。それに反対ばかり掲げている野党の安保政策がリベラルだとも思わない」(前出の男性会社員)
これに対して井上さんは、日本のリベラルと称する勢力の「憲法9条を護持せよ」という護憲派は本来のリベラルの姿勢ではない、と指摘している。
「リベラリズムの根本原理は、対立する人々の公正な共生の枠組みを成している正義の理念にある。これは公正な政治的競争のルールたる立憲主義の尊重を要請する。
護憲派は改憲派を憲法破壊勢力と批判するが、護憲派も専守防衛・個別的自衛権の枠内なら自衛隊・安保を政治的に容認しており、戦力の保持行使を禁じた9条との矛盾を糊塗してきた。政治的ご都合主義で憲法を蹂躙してきた点では彼らも同罪だ。彼らが立憲主義を標榜するなら、最低限、護憲的改憲(専守防衛・個別的自衛権の枠内で戦力保持行使を認める9条2項の明文改正)を主張すべきだ」(「読売新聞10月17日朝刊」より)
また、自民党についても「北朝鮮問題がこれほど緊迫化しているのに、安倍首相も9条2項温存の加憲案で戦略としての自衛隊の認知を回避しており、護憲派と同じく平和ボケ。国防を真剣に考えるのが保守だとしたら、安倍政権は保守の名に値しない」と批判している(「読売新聞」同より)。
決して現状を肯定している訳ではない
20歳の男子学生は、そもそも今の若者にイデオロギー対立はなく、いかに改革志向であるかが重要だと話す。
「今の若者にイデオロギー対立を背景にした『保守』と『リベラル』の構図はなく、自民党の政策にも両方の政策が混ざっていて、欧米のようにわかりやすい対比軸はない。『保守』と『リベラル』を分けるものは、いかに日本を良くする改革的な個別政策を掲げているかという面で判断されるのではないか」
実際、30代以下の世代は他の世代と異なり、自民党の次に希望の党を支持し、「改革」志向を重視している。憲法改正に賛成する若者も多く、安倍首相が掲げる自衛隊を明記する憲法9条改正についても、全体では「反対」45%が「賛成」36%を上回っているが、18〜29歳のみが「賛成」49%が「反対」34%安倍政権による憲法改正を支持している結果も出ている(朝日新聞社10月23、24日に実施した全国世論調査より)。
自民党支持の結果から、若者は「保守化」していると見られがちだが、若者から見れば、自民党は「改革派」であり、決して現状維持を望んでいる訳ではない。
立憲民主党の枝野幸男代表は選挙期間中のインタビューや街頭演説で自身のスタンスを「保守」、なかでも「リベラル保守」であると語り、東京工業大学の中島岳志教授は共産党を「保守」だと主張するなど(「緊急対談
衆院選で問われる日本政治の新しい対決軸、リベラル陣営のリアリズムとは(山下芳生×中島岳志)」より)、従来の「リベラル」政党が「リベラル」のイメージから脱しようとする傾向にあるが、若年層の支持を得るには、いかに日本を変えていくかをより強く提示していく必要があるだろう。